第2章 投資家とインフレーション
インフレとそれへの対処は、人々の大きな関心の的である、というくだりから始まる第2章です。この章はあらかじめインフレと株式投資の基礎知識が前提になりますので、インフレについての記事にまずは目を通してからご覧ください。
株式と債券はどちらが安全か
- 債券投資は本質的に望ましい投資のかたちではない。よって株式投資のほうが本質的に債券投資よりも望ましい。
- 株式市場がいかに高かろうと、株の配当利回りが債券の利回りよりいかに低かろうとも、たとえ優良株であっても、債券に比べたら決して良い買い物にはならない。債券は株式よりも安全である。
これらはどちらがいったい正しいのでしょうか?
株にはインフレの保護機能があるのか
先ほどの2つの比較は、前者がインフレのヘッジ機能についてであり、後者は価格変動リスクについてのものであることはわかります。立場が違えばものの見方も変わりますね。
インフレの価格を転嫁できる、株式投資はインフレに対する保護機能があるというのが、証券の世界での教科書どおりの理論です。しかし長期間にわたる過去の研究成果より、グレアムは驚きの発言をします。
この点について、われわれは断言できる。インフレ(またはデフレ)状態と、普通株の株価・収益変動の間には密接な関係はない。
生活費が上昇したのに株式収益が落ち込んだり、生活費が上昇しなかったのに株式収益は目覚しく上昇するという現象が起きていたのです。
インフレと企業収益
インフレになれば商品価格があがり、資本利益率も上昇しそうなものですが、実際には卸売物価や消費者物価と共に上昇するという傾向は見せてなかったのです。
グレアムの研究による結論は、
投資家は、ダウ平均採用の企業の直近5年間の利益率を上回ることを見込むことはできないのだ。これらの株式の市場価値は簿価を軽く上回る(注:PBR1倍を軽く上回る)ので、現在の市場価値を基にした収益率(株式益回りのこと)はたった6.25%である。
この数字は第1章で述べた「投資家は保有株式の市場価値の約3.6%の平均配当金と、利益の再投資による年間約4%の上昇を合計したものを想定する」という提案とまさに一致している。
ということです。少し説明しましょう。
株式による企業投資はROE以上のリターンはありません(参照→ゼロサムゲームから見る投資と投機の違い)。株式益回りはPBR1倍の時にROEと等しくなりますから、簿価を軽く上回っている当時(およそPBR1.6倍)はROEが約10%だと株式益回りは6.25%になるのですね。(参照→株式益回りとは)
このうち、3.6%は配当として支払われます。残りの6.25-3.6=2.65%分は内部留保として再投資され、株主資本が厚くなります。PBRはおよそ1.6倍ですので、2.65×1.6≒約4%分だけ株価の上昇というかたちになり、ぴったり一致しているということです。
ここにインフレによる影響はありません。以下はグレアムの言葉です。
過去における比較的大規模なインフレが一株あたりの利益に直接影響を与えたという証拠はどこにもない。過去20年間におけるダウ平均採用銘柄の大幅な収益増はすべて、収益の再投資による投資資本の大きな成長に比例したものだったということを、数字はいみじくも示している。
インフレには金利上昇の効果もあり、企業の債務の金利負担の増大の影響も大きいことや、賃金の上昇などのマイナス面もあり利益上昇効果も相殺されてしまうのです。
結論としまして、当時の状況(PBR1.6倍、ROE10%)なら、年8%以上の収益を期待する根拠はどこにもないのです。それ以上の上昇相場になれば、必ず下落するというサインとして受け止めよと言っています。それがインフレの可能性による正当化の幻想を防ぎ、悲劇を起こさないためのものになるのです。
インフレの防衛手段としての普通株の代替
ここで少し趣が変わった話になります。金投資、ダイヤモンド、希少な切手や硬貨、名画などの長年価値が上がり続けるような貴重品を投資対象とすることについてです。
金投資は名前こそ投資ですが、実態はゼロサムゲームであり投機です。金(きん)を持っていても何も生み出しません。価格は上昇することもあれば下落することもあります。金そのものからは何も利益を出さない以上、投資対象としては不適切です。
稀少通貨についても、1804年と記された米国銀貨に6万7500ドルを支払うのは馬鹿げています。PBRにしたらいったい何倍になるのでしょう?本質的価値以外についたプレミアムは、人がつけた人気度です。誰も見向きもしなくなった時に、いったいいくらの価値が残るというのでしょうか。
不動産投資についてもふれていますが、グレアムにとってこの分野は明るくないだけであって、不動産の専門家なら、株に代わるインフレヘッジの資産として充分通用するように私は思います。
結論
第1章に引き続き、将来の証券の価格はわからないのだから、すべてを債券にすることも株式にするのも良くない、と述べています。株式がインフレにたいして充分な保険となる確証はないが、債券よりは確かなことであることがわかっています。
株と債券をバランスよく、例の25%~75%でもつことを再び推奨しています。
[...] 第2章 投資家とインフレーション [...]
Posted at 2008.06.24 1:07 PM by 賢明なる投資家とは | かねなし父さんの挑戦