第5章 防衛的投資家のための株式選択(その2)
市場は常に上昇し続けるものではなく、大きな下落をする事もあります。上昇時だけではなく、暴落時へのリスク管理を徹底せよという考え方のグレアムの、第5章防衛的投資家の株式選択の後編です。
リスクの概念について
リスクという言葉から感じられる意味合いは「危険性」というところが一般的だと思われます。riskの和訳が『危険、冒険』なのでその通りですよね。「リスクがある」というのは「失敗する可能性がある」、リスクをとるというのは「失敗の可能性もあるけどやってみよう」という感じです。
しかし証券の話題になると、リスクというのは価格変動を指すボラティリティにかわります。値下がりだけでなく、値上がりもリスクになってしまいます。金融工学では価格変動が計算式のよりどころになるので、上昇も下落も同じように扱っています。
リスクについての算出法は株式投資帝國のリスク【Risk】の意味のページが図解してわかりやすく解説してあります。
グレアムもバフェットも、この価格変動をリスクと指す事に抵抗を持っています。証券の価値を、企業の内在的価値としているバリュー投資の考え方から行くと、価格の下落はリスクの低下と考えられるからです。
同じものを買うのに安く買えるなら、損失の可能性が減るというのは納得のいくところだと思います。暴落してたたき売りされているときこそリスクは減っているのです。
真の損失リスクとは
債券は金利が上昇すると価格が下落します。金利5%の債券と10%の債券があれば10%のほうをみんな買うからです。すると金利5%の債券は値段が下がり、期間が1年物なら額面の約95%の価格におちつきます。
この値段なら金利5%の債券を95%で買って、100%で償還されたときの差益5%と、金利の5%を合わせて10%の利回りを期待できるからです。
この5%の値下がりは、5%債券保有者にとって損失リスクと言えるでしょうか?
5%の債券保有者も売らずに一年間保有していれば、当初の期待通りの5%の収益を手にすることができます。途中の価格変動は売らない限り損失となっては姿をあらわしません。儲けが減ったとは感じるでしょうが、損したとは思わないはずです。
不利な状況の時にわざわざ売らないのであれば、価格変動に真の損失リスクがあるとは言えないのです。そこでグレアムは以下の三点に絞って用いるべきと説いています。
- 現実の売却によって損失が確定した場合
- 投資先企業の経営状況が著しく悪化したために株価が下落した場合
- 証券の内在的価値に照らして高すぎる株価で買い付けた結果の値下がり
安全域を持って買った適切な分散投資の株式ポートフォリオにとっても、価格変動という要素だけを捉えて「危険」だとすべきではないのです。企業が収益を上げ配当が支払われ続ける限り、投資家にとって何の損失も受けてないからです。
投資家個々の事情
投資家それぞれによって、投資に対するスタンスが違います。グレアムが3つのケースについて勧めているモデルがあります。ファイナンシャルプランナーみたいですね。
20万ドルの遺産で自分と子供たちの生活を支えなければならない未亡人
生計を立てるための定期的な収入を得る事が死活問題であり、投資金の保全がとても重要になります。この場合は防衛的投資家として株式と債券を半々ずつ保有すべき、と言っています。
絶対やってはならない事は、利益を上乗せするための投機的行為であり、財産の半分をリスクにさらすぐらいなら元本を毎年2千ドル取り崩したほうがマシだと言っています。
毎年2千ドルで生活できるのかって疑問が沸きますが、1972年当時のダウ平均株価が1000ドルぐらいだった事を考えると、現在の10倍ぐらいの価値になりますね。当時ならなんとか生活はできたと思われます。
しかし30年以上たった現在、インフレがすすんで元本の取り崩しだけでは生活ができなくなっている事は明らかです。ある程度のリスクをとって運用をしなくては、どっちみちジリ貧になってしまうという事でもありますね。
貯金が10万ドルあり、さらに毎年1万ドルずつ増えていく壮年の医師
一番投資家として成功しそうに見えるパターンですが、それでも未亡人の場合と同じ防衛的投資家に徹しろという事です。医者の証券投資に関する勉強をしたり、資金管理をする時間が充分に取れないためだからです。勝手に決め付けるなって気もしますが、言い換えれば忙しい人はみんな防衛的投資家にならざるを得ないという事ですね。
また自分の知性に過剰な自信があり、証券価値に対する専門的な研究が必要であるという事を認識してないので、医療関係者は有価証券取引で失敗するというのは定説になっているとのことです…。
週の収入が200ドルで年に1000ドルの貯蓄をする青年
今後の収入が増える見込みがある青年ですが、それでもやっぱり防衛的投資家になれということです。理由は「少ない金額のためにそこまでする価値がない」から。
これはちょっと酷い話に聞こえますね。他人から見たら少なくても、こつこつ貯めた金額は当人にしては大事なお金だからです。運用する以上は当人は一生懸命やることだ思います。そこまでする価値がないかは本人に決めさせてほしいですよね。
ただグレアムは、若い彼らが積極的投資家を目指すことは、何度か判断ミスをして多少の損失を生む事になるが、失望を乗り越え糧にすることができると言っています。市場に勝つ事を目指すのではなく、証券価値を研究し、自分の判断の正しさを、最小限の金額を投じて証明してみることを早いうちに行うのが、大きな強みになるのです。
買い付ける証券の種類や期待される収益率は、投資家個々の財力ではなく、証券投資に必要な知識や経験、性格といった資質によってきまる。
まとめとして投資家のスタンスに対するのグレアムの言葉です。
「財務内容の良い有名な大企業」とは
防衛的投資家が投資対象とする、財務内容の良い有名な大企業の定義です。
- 財務内容が良い企業:株主資本純資産が半分以上、鉄道会社や公益企業ならば30%以上
- 有名な企業:業界内で上位4分の1に入る企業
- 大企業:当時5000万ドル以上の資産か売り上げがある企業
これで思わずスクリーニングをかけたくなりますが、グレアムはそれに固執するのはバカげたことと述べています。
そこに線引きをするのは手引きを必要とする人のための指針であり、投資家各人が決めたものでも構わないからです。自分が有名企業であり大企業と言えるものならそれで良く、投資家各人によって意見は分かれて当然であるのです。
大企業や有名企業も実際社会において日々入れ替わっているのですからね。
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