第8章 投資家と株式市場の変動
ウォーレンバフェットが序文で「8章と20章で述べられている貴重な教えに細心の注意をもって臨むことができれば投資でひどい目に遭うことはないでしょう」と述べている重要な章です。
ミスターマーケットという有名人も、この章で登場します。
タイミング手法について
株式投資を行ううえで、どんなに厳選された優良銘柄を、どんなに適切な値段で手に入れたとしても、相場の動きからは逃れられません。暴落というのは必ずおとずれます。
問題はいつまで下落するかということです。今が底なのか、まだ下がるのか。買うのはまだ見送ったほうがいいのか。みな売買のタイミングをはかるのですね。
エコノミストやアナリストの予想を元に、相場の底を探ろうと考えます。目を皿のようにしてニュースを眺めます。為替や原油の動き、アジア市場、米国市場、ヨーロッパ市場…。株式投資を行うということは、相場予測と世界情勢の見通しを行うものだと多くの人は考えます。
そんなあなたに、グレアムは話しかけます。
多くの優秀な人々が相場予測を行っており、一部の人は間違いなく、正しい相場分析を行った結果としてカネを手に入れているということだ。しかし、一般の人々が相場予測で儲けられるなどという考えはバカげている。もしもあなたが、何らかのシステムや相場予測の指示に従って売買する事でカネ持ちになりたいと考えているとすれば、無数の人々と同じ事をして、数知れない競争相手よりもうまく立ち回ろうとしている事になる。
投資苑 - 心理・戦略・資金管理という本に、面白い例えが載っています。車を運転するのに、多くの人が周りに動きをあわせて事故が起きないようにしている。しかし株式市場というところは、誰もがあなたを狙ってぶつかってくるのだ、と。細かいところはおぼえていませんが、そんな感じでした。
株式市場にいる限り、周りは全て敵なのです。優秀な頭脳と資金と情報網を抱えた機関投資家が、一日中相場の動きを注視しています。インターネットぐらいしか情報入手方法がないあなたが、仕事から帰ってきてからの数時間だけの研究で、彼らより機敏に正確に動くことなどできるのでしょうか。
一般の投資家が、自分自身もその一員である一般大衆以上に的確に相場の動きを予測できるなどという根拠は、理論的にも経験上においても存在しないのである。
一時的には「相場に勝つ」こともあるでしょうが、それはゼロサムゲームである以上、一部の人だけであり永続的なものではないのです。投資というのはやはりプライシング手法、すなわち価値よりも価格が安くなったときに買い、高くなったときに売るというのが王道なのです。
相場の底や天井を狙って売買するというのは幻想に過ぎないんですよね。
含み損益について
含み益、含み損とは。投資家による4つの考え方というページに私なりの考え方を述べていますが、グレアムもやはり日々の価格変動により自分のカネが増減するものではないと考えています。
しかし大きな変動が長期間にわたった場合は、実際的、あるいは心理的な問題が浮上してくるといっています。大きな含み益ができると自分を過大評価し、軽率な行動へと誘(いざな)われてしまうのです。
あなたの持ち株が上がり以前より金持ちになった。大いに結構。しかし、株価が上がりすぎたとして、売却を考えたほうがよいのだろうか?あるいは株価水準が低かったときにもっと株を買っておかなかったことで、自分を責めるべきなのか?はたまた強気相場の空気に飲み込まれ、群集の熱気とうぬぼれと貪欲さに感化され、大きく危険な売買をすべきなのだろうか?
答えはわかりきっていますよね?だけど投資経験がある人なら、実際はそんなに簡単じゃないことがわかります。
活字としてこの内容を見れば、最後の問いかけに対する答えがノーなのは自明であるが、賢明なる投資家でさえも、群集に同調しないためにはかなりの自制心が必要なのである。
バリュー投資家にとって、上昇相場というのはちょっとした問題が出てきます。それが「割安銘柄がなくなる」ということです。そんなときにとってしまう行動が、他と比較して「この銘柄は割安だ」と相対評価をして、無理やり自分を納得させてしまうことです。
ある程度の理性は残しているものの、それまでの利益の事を考えると株式投資から一歩置くというのが惜しく感じますし、まわりの自分より浅はかな市場参加者が大きく利益を伸ばしているときに、自分だけやめるというのは本当に難しいことです。
いつかは相場は下落する。このことは相場の下落の恐怖を感じているときに強く胸に刻んで、次の上昇相場の時に理性として働かせたいですね。
業績評価と株式市場評価
未公開の株は、多くの場合その価値は企業収益や資産価値によって決まります。注意するのは企業業績や配当ということになります。本来は株式会社に投資するということはそういうことのはずです。
上場株に「投資」する時でも本質的には変わりません。適切な価格で証券を手に入れられたら、あとは株式市場の変動に心を奪われる必要はないのです。反対に株式市場の変動は、上場企業株主に与えられたメリットのひとつなのです。
真の投資家が持ち株を売らざるを得ない状況などめったになく、そういった状況以外のときには株価を無視しても構わないということだ。相場にどれだけの注意を払ってそれに従うかは、自分で決めればよいのである。したがって、正当な理由なき市場価格の下落によって、驚いて逃げ出したり過度に不安がるという投資家は、基本的な強みを逆に弱みにしてしまっていることになる。
そしてミスターマーケットが登場します。
ミスターマーケットとは
ミスターマーケットは、株式市場の変動を擬人化したグレアムの例え話です。
ある個人企業に1000ドルの出資をしていると想像してほしい。共同出資者の一人には、ミスターマーケットという名の非常に世話好きな男がいる。彼は、あなたの持ち分の現在価値に関する自分の考えを毎日教えてくれ、さらにはその価格であなたの持ち分を買いとってもいいし、同じ単位価格で自分の持ち分を分けてもいいと言ってくる。
これはつまり市場価格ということですね。市場価格で売買するもしないもあなたの自由です。
彼の価値価格が、企業成長やあなた自身が考える将来性に見合っており、適切なものに思えるときもあるだろう。その反面、ミスターマーケットはしばしば理性を失い、あなたには常軌を逸した価格を提示しているように思えることもある。
バブルや暴落ですね。
もしもあなたが慎重な投資家あるいは思慮深い実業家ならば、自分の出資分1000ドルに関する価値評価を、ミスターマーケットの言葉によって決めるだろうか?そうするのは、あなたが彼と同意見のとき、また彼と取引したいと望むときだけである。彼が途方もない高値を提示してきたときに全持ち分を彼に売ることができたり、あるいは安値の時に彼の持ち分を買い取ることができれば、それはあなたにとって幸運だろう。しかしそれ以外のときには、事業内容や財務状況に関する報告書に基づいて、持ち分の価値評価について自分なりの考えを持つのが賢明なのである。
まったくもって腑に落ちる話です。この考え方を冷静にできれば、暴落もバブルも慌てることなんてないのです。順序は変わりますが、次の言葉で投資家の対応策がわかります。
半値まで下げるような株価下落が、投資家にとって大したことでないなどというつもりは毛頭ない。注意深く情勢を調べて、計算ミスを犯してないかを確かめるのが賢明であろう。しかしその結果、思っていた通り、自分の投資が間違いでなかったことを確信したならば、証券市場の一時的な気まぐれとして相場の下落を無視してもよいのだ。また、もしも資金と勇気を持ち合わせていれば、状況を逆手にとって割安な株価で買い増すこともできるのである。
この章のまとめとして次のように結んでいます。
「株価が大幅に上昇したすぐ後には絶対に株を売ってはならない。また、大幅に下落したすぐ後には絶対に売ってはならない。
ちょっと引用部分が多くなってしまいましたが、この第8章はグレアムの一言一句が心に響くので、その雰囲気を感じ取ってもらえたらと思います。
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