再調達コストから導く資産のバリュー計算方法

前回の清算価値から計算のに引き続き資産のバリューを測定する方法として再調達コストを取り上げることにします。再調達コストとは、分析している企業と全く同じものを作り上げるのにいくらかかるか、ということです。ちょっと長編ページになりました。

再調達コスト算出のメリット

再調達コストの計算から何がわかるかというと、時価総額>再調達コストなら、新規参入企業が同じ金額を使って新たに会社を作れば時価総額との差額が儲かるということですし、再調達コスト>時価総額ならその会社を買収すれば儲かるということです。

我々は起業家ではなく投資家なのですから、後者の再調達コスト>時価総額となるような銘柄を見つけることになります。会社は株主の部分保有という観点から考えれば、少ない株数でも考え方は同じになります。

見るものは貸借対照表(バランスシート)

再調達コストの計算の仕方は毎度おなじみバランスシートの分析になります。資産の上の欄から順番に補正をくわえつつ本当の企業価値を計算する作業になります。

まずは流動資産の上の欄。現金および現金同価物はそのままです。次の欄に出てくることもある有価証券ですが、流動資産の欄にある有価証券は換金性が高いのでそのままで計算します。

次の売掛金の計算方法は、バリュー投資入門による計算方法は少々疑問符が付くところです。『取り立て不能債券に備えた所定の引当金を含んでいるであろうし、新規参入した場合はなおのこと代金を払わない顧客が多いだろうから、再調達した場合はおそらく簿価を超えている』とのことです。

うーむ、企業家として考えるのならその通りなのかもしれませんが、売掛金は貸し倒れリスクから割り引くのが投資家側の考え方だと思っています。保守的にいくなら割り引いた方が安全域は広まりますしね。

棚卸資産はもっと複雑になってきます。急に増えた場合は、売れ残りと考えることが出来ます。再調達はそこまでする必要がありません。急に増えた棚卸資産は割り引く必要があります。

なぜなら棚卸資産は製品でありますので、現金より安く作ることが出来ます。どういう事かと言いますと、流動負債を増やしてキャッシュを持ち、それで棚卸資産を作りまくった場合は、流動資産を果てしなく増やす錬金術すらもできるからです。

資産の大部分を占めるまでに棚卸資産をつくる愚かな経営者はいないと思いますが、意図せず増えてしまっている場合は割り引きましょう。

前払い費用や繰り延べ税金は、会社が1年以内に換金できると考えているのでそのままでいいです。基本的に流動資産は異常がないかぎり大きく増減させなくていいのです。

固定資産は測定が難しい

次からが大変な固定資産です。しかし固定資産の分析を正しく行うことが出来れば、投資チャンスがおおきくなるのです。

土地の計算方法は、やはり近くの似たような土地を探して時価で計算する実勢価格や、国土交通省が三月に発表する公示価格が参考になるでしょう。昔からの地主なら大きな資産になっていて、再調達には非常に大きい金額になっていることもあります。

しかし、個人投資家が計算するのは大変な労力をともないます。

建物および建築物も計算が難しいです。インフレの時代は減価償却という点から見れば資産価値は落ちていくのに対し、再調達コストとなると年々上昇していくことが当たり前になるからです。これを算出するには専門的な知識が必要となります。

機械装置は再調達コストの観念からいくと、新規参入組にとってはメリットがあります。同じ能力を持つ機械装置は、年と共に安く手に入るからです。ということで機械装置は大きく割り引かねばなりません。

潜在的な価値。営業権(フランチャイズ)

営業権も難しい問題です。営業権は以前の買収で、簿価以上に支払った代価です。その時の買収には、その会社には資産以上の何かがあると考えられて(知名度や社員の能力等)簿価より高い値段で支払いをしたのです。

これらを無視できるかというと、簡単な話ではありません。コカコーラの資産の1番大きなものは、コーラを作る機械ではなく、間違いなくそのブランド名にあります。

バフェットが話すように、コカコーラは火事で全て焼け落ちたとしても、どこの銀行でもコカコーラのために再建するためのお金を貸してくれます。これはコカコーラの資産が営業権だからです。火事で営業権が焼けることはありません。

個人投資家としてやれること

ということで、固定資産のバリュー(価値)の測定は個人投資家には難しいという結論になりました。なぜかというとバリュー投資入門という本は、個人投資家だけではなく機関投資家やファンドマネージャーも読むように書かれた本だからです。余談ですが本屋さんで見つけたときは、株や投資のコーナーではなく、金融工学に分類されていました。

それでは役に立たないかといえばそうではありません。個人投資家が対応するには、固定資産が占める割合が小さい会社のみを分析対象にすればよいということです。

固定資産が流動資産の10分の1ほどの会社もあります。そういう会社なら例え固定資産の見積もりを誤っていたとしても、影響は小さくすみます。よく知っている内容の企業にのみ投資すると言いますが、その原則はここでも当てはまります。バフェットの言うように、3メートルの塀を飛び越えるより、跨げる高さの柵を探すことが大切なのです。

研究開発費

営業権のほかに重要かつ、簡単に数字をはじき出せないものとして、研究開発費(R&D)があります。この研究開発費は、あのフィリップフィッシャーもその価値を大きく見積もっています。

研究開発費は新製品の開発費用などのことですが、これは業種によって大きく性格が変わってきます。技術水準が高い業種ほど、損益計算書に計上する費用も高くなってきます。ソフトウェアを開発する企業なんかはこれが将来を左右すると言っても過言ではないし、医薬品メーカーもとてつもない開発費用を費やし、新製品のしのぎを削っています。

バリュー投資入門では、新規参入組の再調達コストは最低でも1年分の収入をつぎ込む必要があると述べています。

まだまだ資産計上するものは続くのですが、はっきり言って手に負えません。この辺は安全域を多くするために、厳しい見積もりをするしかありません。幸い起業家よりも投資家の方が見積もりが楽です。対象銘柄はたくさんあるので、充分余裕がある銘柄を買えばいいからです。

負債の部

さてバランスシートは資産のほかに負債があります。資産価値から負債を引かないと企業の値段は出すことができませんね。そうでないと借金しまくりゃいいという話になりますから。

負債の部は計算が簡単です。資産と違って返さなくてはならないものとして計上してあるので、数字に間違いも割り引く必要もありませんから。ただ負債の中には、新規参入組は支払わなくていいものがあります。過去の法律違反の罰金や、訴訟の和解金等です。

それらをふまえて資産から負債を差し引くのですが、自己資本比率があまりに低い場合は、資産の見積もりが少し違うだけで大きく企業の価値を見誤ることになります。

例えば資産のバリューが1億ドルで、負債が8000万ドルだとします。すると正味の株主資本は2000万ドルになります。ところが資産のバリューの推定が10%間違っていて9000万ドルだった場合、正味の株主資本は50%減って1000万ドルになってしまいます。

これはせっかくの安全域すらも全て吹き飛ばしかねない事態です。そのためにバリュー投資家の多くは借入債務が高水準の企業(自己資本比率が低い企業)には投資しないのです。

再調達コストの計算に関しては以上です。(お疲れ様でした!)

関連するエントリ(上記とかぶる場合があります)

« 清算価値から計算する資産のバリュー | ネットネット株等、資産バリュー投資まとめ »

トラックバック URL

コメント & トラックバック

この記事にはコメントがつけられません

[...] 企業の資産ベースの価値を確立する方法はいくつかあり、再調達コストはそのうちのひとつです。次はグレアム=ドッドのネットネット手法です。流動資産から負債総額を差し引いて、 [...]

[...] ちょっと漠然とした内容に聞こえます。再調達コストから導く資産のバリュー計算方法あたりが参考になると思います。また、最も明確な割安株については後述します。 これらの基準を [...]